世界シェアNo.1の旅行ガイドブックに祖谷を載せたアメリカ人 パート1|大好きな祖谷を第二の故郷に メイソン・フローレンス氏
2023.01.07
徳島県三好市祖谷、訪れるだけでも大変である秘境が年を追うごとに、特別な旅を求める外国人旅行者に人気となっている。
それは25年ほど前に初めて祖谷を訪れ、その紹介記事を書いたトラベルライター、そしてイベントプロモーターであるメイソン・フローレンス氏の活動に始まるとも言えるかもしれない。
祖谷を第二の故郷と想うアメリカ人を紹介する。
「最高にハッピーだよ!」待ちに待った三好市祖谷へ3年ぶりに戻って来たメイソン氏
JR大歩危駅のホームに、列車から降りたばかりの彼の大きな笑顔が見えた。
「やっと帰って来た!3年近くも経ってしまったなんて信じられない!」
10月下旬の晴天の日、彼の笑顔はうれしさと興奮で輝いている。
「今、誰も想像できないぐらいに僕はハッピーだよ!」
アメリカ出身のメイソン・フローレンス氏は、四半世紀に渡って、徳島県三好市祖谷地方と深い関わりを持ってきた。
通常は毎年、それも年間に何度も祖谷を訪れていたのだが、この新型コロナウイルス感染症による入国制限でしばらく訪れることが出来なかった。
「2年9ヶ月と4日!」彼は日数も数えていたようだ。
初めて日本に来てから30年ほどの間に、日本を訪れなかった最長記録だそうだ。
早く祖谷に行きたい、そんな気持ちが2022年10月に入国規制緩和されるや否やすぐ、メイソン氏を「第2の故郷」へ向かう飛行機へと乗せた。
大歩危駅から祖谷に向かう車中で、彼は「仙吉へランチに寄ろう」と言う。
「今、どうしてもうどんが食べたい」
20年前、このレストランがオープンする前から友人であるという「仙吉」のオーナー兼料理長に温かく迎えられ、メイソン氏は、ようやく久しぶりのうどんをすすることが出来た。
「だしに入っている柚子の隠し味が最高」と、出汁と柚子について説明しだした。彼は、柚子の大ファンでもある。
【関連記事】
>>仙吉 祖谷の味 パート1 忍者もやってくる、秘境の蕎麦屋
世界的に有名な老舗旅行ガイドブック「ロンリープラネット」日本担当のメイソン氏が、徳島県三好市の祖谷を紹介した。
メイソン・フローレンス氏は1990年代はじめに日本に移住した。
英字新聞ジャパンタイムズの日本記者として数年働いたのち、ガイドブック「ロンリープラネット」の日本担当として現地訪問やライティングを行った。
紙のガイドブック「ロンリープラネット」は、インターネット以前は外国からの旅行者は誰でも手にしていた大事な、そしてほとんど唯一の情報源だった。
彼は、ガイドブックでは京都エリアと四国全域の担当をしていた。それがはじめに四国のほぼ中央に位置する、この人里離れた美しい「祖谷」に興味を持つきっかけだった。
まるで夢の中にいる様…初めての祖谷の滞在で見るものすべてに魅了された
メイソンさんは、初めての祖谷での滞在で、そこで見つけたものすべてにあっという間に魅了された。
この「失われた」谷を多くの人に紹介するため、ガイドブックの祖谷のコーナーを大幅に増やし、初めてガイドブック向けに造られたという祖谷地域の地図を含め、数ページにわたる特集になった。
「数え切れないぐらいたくさんの国に行って、日本も全国を巡ったけれど、祖谷みたいな場所はどこにもなかった」メイソン氏は言った。
「初めて来てから随分長い時間が経った今でも、まだまだ発見もあるし、素敵な人達にも出会い続けている。祖谷でのこの体験は、現実でない、まるで夢の中の様だ」
メイソン氏と秘境祖谷との深いつながり アレックス・カー氏との出会いと古民家再生
しかし、メイソン氏にとっては、ライターとしてこの秘境を訪れるだけでは十分ではなかった。
さらに、京都で作家アレックス・カー氏と出会ったことで、アレックス氏が1970年代に入手した古民家「篪庵(ちいおり)」の存在を知ることとなる。
その古民家はアレックス氏の著書「Lost Japan (美しき日本の残像)」の主題となっている。
アレックス氏は祖谷には住居しておらず、篪庵(ちいおり)は利用されていなかったため、当時その古民家はかなり傷んでいた。
ところが「祖谷と古民家」をダイヤモンドの原石を見つけたように感じたメイソン氏は、アレックス氏と合意、協力して古民家を修復するだけではなく、山村の昔ながらの活動の場へと生き返らせることにした。
更に、篪庵をこの忘れられた美しい谷への観光の拠点にしようと大きな目標を掲げた。
メイソン氏の祖谷への情熱は、アレックス氏に大きな影響を与えた。
後に三好市など行政も一丸となった、釣井集落の篪庵だけに留まらない、落合集落にある複数の古民家再生プロジェクトにも繋がったのだろう。
メイソン氏のとどまることのない情熱とあふれ出るアイデアによって、「ちいおりプロジェクト」が立ち上げられ、その後数年間で何百人もの短期および長期のボランティアがやって来ては、古民家の修復をし地元住民と交流して祖谷の様々な伝統技術や文化を保護しようと活動した。
そして、見捨てられかけていた場所に、ようやく必要とされる多くの手がかけられた。
続いて、数々の国際的なメディアとの繋がりが大きくなる程に、メイソン氏の興味は忘れかけられていたこの日本の片隅への関心を向けてもらうように「ガイドブックや地図、メディアで紹介して、多くの人々に祖谷を訪れてもらう」ことへ広がっていった。
そうして最終的に、旧「ちいおりプロジェクト」はNPO法人となり、さらには「ちいおりトラスト」と呼ばれる現在の形態に至った。
隙間だらけで、雨漏りのしていた古民家は完全に修復され、モダンな設備の整った宿として運営されている。
第二の故郷 祖谷での拠点づくり
メイソン氏は、2007年にNPO法人になった篪庵(ちいおり)での役割を終え、アジアでのメディア業の拡大に専念、キャリアを積んでいた。
その1つが「Bangkok 101」という、タイでの食と旅の月間情報誌の刊行だった。
しかし、メイソン氏がタイを中心に活動しているとはいえ、心は祖谷と繋がったまま。
祖谷で作った友人達によって、メイソン氏は篪庵と同じ集落に古民家を既に持つに至っていた。
新型コロナウイルス感染症で入国が難しかったここ数年以外は、年に何度も何度も訪れては滞在を楽しみ、古くからの友人達と時間を過ごし、祖谷を満喫していた。
仙吉で久しぶりのうどんを食べた後、メイソン氏はようやく奥祖谷の彼の隠れ家に到着。
「いつも祖谷に帰ってくる時はわくわくした気持ちになるけれど、長く来れなかった後の今回はなおさら」
彼は満面の笑みを浮かべて言った。
「本当に家にいる気分だよ」
パート2では、メイソン氏を魅了する祖谷について紹介する。
>>世界シェアNo.1の旅行ガイドブックに祖谷を載せたアメリカ人 パート2|祖谷の全てを楽しむメイソン・フローレンス氏
三好市観光公式サイト 大歩危祖谷ナビ
https://miyoshi-tourism.jp/
(取材・文: ショーン ラムジー、写真: ショーン ラムジー & メイソン フローレンス)
【詳細情報】
篪庵(ちいおり)トラスト
https://miyoshi-city.jp/spot/篪庵(ちいおり)トラスト
住所:三好市東祖谷釣井209
TEL:0883-88-5290
【関連記事】
>>アレックス・カー氏が耳打ちする「本当は教えたくない祖谷の旅」 vol.1
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仙吉
祖谷のかずら橋へ向かう途中にある、壁に忍者の姿がインパクト大な秘境の名物蕎麦屋。
オーナー兼料理長が自分の手で行った内装は時代を経たような落ち着いた雰囲気になっていて囲炉裏の間もあり、いたるところに骨董品が飾られ、窓からの山々の景色も良く趣があります。
海外からのお客さんが多いことでも有名で、英語や中国語のメニューも完備。
1番人気のメニューは祖谷の旬のものを使った季節の天ぷらが付く「祖谷そば天ぷら」で、牛肉や鶏肉入りの変わりそばメニューも海外からのお客さんや若い方に人気。 -
道の駅にしいや
大歩危と祖谷のかずら橋を県道沿いにある道の駅。近隣には大人から子どもまで楽しむことができる祖谷ふれあい公園や祖谷秘境の湯(温泉施設)がある。施設内には休憩施設や地元特産品を直売する売店の他、本場の祖谷そばが食べられる食堂もある。
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神代踊り
神代踊りは、1100年以上昔の雨乞いがその起源とされ、各地で伝えられてきた厄除けや虫送りの儀式とは異なるものである。
あでやかで勇壮な踊りは、昭和29年(1954年)に国の重要無形民俗文化財に指定されている。
令和4年(2022年)にユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された。
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