「救助の道へ進むはずだった」—ラフティング選手中野晶良が世界一を目指す理由

2022.05.17

特集

2021年11月27日~28日、徳島県三好市吉野川を舞台に「第6回全日本レースラフティング選手権大会」が開催され、2日間に及ぶ熱戦が繰り広げられた。各カテゴリーの優勝チームは、今年5月に開催される世界選手権出場の権利を手に入れた。オープン男子カテゴリーの優勝はラフティングチームテイケイ。今回は世界選手権への抱負とともに各選手の想いを聞いてみた。

中野晶良(なかのあきら)選手

所属:ラフティングチームテイケイ
出身地:神奈川県
生年月日:1991年8月27日
ニックネーム:あきよし、なかのっち、あきら
好きな食べ物:ブリ、リンゴ
嫌いな食べ物:酢の物
得意技:マッサージ

パドリングとの出会い~学生時代に競技大会で見たオリンピック選手のカヌースラロームに一目ぼれ

大学時代はカヌースラローム選手として活躍。これがパドリングスポーツとの出会いだった。

中野選手:「きっかけは2010年8月、奥多摩御嶽で行われた全国学生カヌースラローム競技大会です。大会に出場していた足立和也選手(2021年東京五輪出場)の漕ぎに一目で魅了され、あんな風にカヌーを漕げるようになりたいと思い、カヌースラローム競技を始めました」

ラフティング、カヌースラローム、アウトリガーカヌー、SUPなど中野選手のパドリング経歴は多彩だ。様々なパドリングスポーツに精通する中野選手、自身の経験からカヌースラローム競技とレースラフティング競技の違いを聞いてみた。

川に設置されたゲートを通過するカヌースラローム競技

何と向き合うのか~カヌースラローム、レースラフティングそれぞれの違いとは

中野選手:「大きくは川に対する向き合い方が違うと思います。カヌースラロームは、一人で静かに川とカヌーに向き合っていく感じ。レースラフティングは、川、そして人と向き合う。その上でボートの動きを判断するので、五感をより多く使う競技に感じます。川の流れの使い方も異なります。ラフティングボートは面積が大きくボートの反応が鈍い、大きな流れを利用し、小さな波は潰して力で押し進めていける。フィジカルがあれば乗り越えられる流れも多くあります。カヌースラロームは繊細で川に近い感じです。小さな波も、僅かな体重移動やボートの角度で面白いほど反応する、ボートの使い方や流れへの理解が深ければ激流も難なく乗りこなせます。

カヌースラロームはいかにストイックに己と川と向き合うか。
ラフティングは、いかに人と調和し川とボートと向き合うか。

あと、メンバー間で意見の相違が出た場合、人によって受け取り方が違うので、自分の考えやエゴを押し付けないように気を付けています。これは複数人で漕ぐラフティングならではですね」

ラフトボートの前方で全体をコントロール リズムを変える重要なポジション

中野選手のポジションはバウマン(前で漕ぐ人)ガシガシとボートを動かすポジションだ。ボートの雰囲気、リズムを作っていけるのがバウマンの醍醐味だと語る。川の流れがよく見えるポジションのためボートの動きを予想しやすい。複数人で同じボートに乗るラフティング、選手同士のズレがボートに与える影響は大きい。ズレが生じたボートは速度を維持できず、負荷だけが増えていく。中野選手はボートの動きを感じ取り、漕ぎのリズム変化、体重移動を巧み使いながら全体のズレを解消する役割も担う。ボートをガシガシと動かすためアグレッシブな性格の選手が乗るのが定石だが、ボートを動かしながらも落ち着いてチーム全体をコントロールする中野選手。チーム内では練習計画の作成、運営等キャプテン小泉選手のサポート役も担っている。

チームメンバーとともに(写真後列中央)

追及するために楽しむ それが強くなるための原動力

スタートラインに並びスタート合図を待つ1分前。この時間が一番緊張すると教えてくれた。行くぞ!と失敗するんじゃないかという気持ちが入り混じるからだという。結果を求められる競技選手、レースの緊張から逃れることは難しい。結果を出すことにおいて楽しむことは必要なのか聞いてみた。

様々な乗り物でパドリングを楽しむ

中野選手:「楽しむことは必要です。競技の根本を楽しめなくなると作業になってしまう。競技が好きということが強くなるための原動力になる。しかし、楽しいだけだと継続や向上まで達しない。結果を出す競技者として明確な目標を定め、高い基準でいかに自身に厳しく出来るかが必要になってくると思います」

なぜ漕ぐのか?~パドリングについて考える 海で気づいた自然と調和する心地よさ

プロチームであるラフティングチームテイケイ。厳しい練習と試合、ラフティング漬けの日々を送る。そんな中、オフの日でも川や海に出かけパドリングを楽しんでいる中野選手。何も考えず漕ぐ。日常のわだかまりが消え、自然と触れ合うことでパドラーとして大切な原点に帰れる。ラフティング以外を漕ぐことが、日々のモチベーション維持にも繋がっていると語る。
最近では家族と一緒に海へ行く中野選手、海との出会いがパドリングについて考えるきっかけとなっている。

ポリネシアのカヌー、Va’a(ヴァア)に乗り島々を渡る

中野選手:「最初はただただ、ラフティングに追われていました。強くならなくては・・・と。切羽詰まった中で、妻が週末に行っているアウトリガーカヌークラブOcean Va’aに付き添いで海へ行きました。そこで競技としてではなく、ライフスタイルとしてのパドリングに触れたことが海でへ行くきっかけです。海ではVa’a(以下、ヴァア)を漕いでいます。ヴァアは精霊と魂が宿る神聖な乗り物です。日本人の祖先たちは、舟を漕いで自然と繋がり、島を渡ってきました。

島々を渡ることをボヤージングと言います、競技者としては装備、合宿所、車、船、補給など守ってくれるものに囲まれていますが、ボヤージングでは人、海、ヴァアのみで、極限に自然と人が調和することを求められます。競技スポーツとは異なるパドリングを経験し、歴史、大切な文化、人の本来持っている強さの一部に触れました。そこから、漕ぐとは自然と人が調和すること。漕ぐことで陸上の欲から切り離され、調和することで感じられることがある。その感覚が心地よくて漕いでいます」

つなげることについて~パドリングが楽しめる社会のために

漕ぐことが生活の一部となっている中野選手。スポーツだけでなく文化としてのパドリングに触れた。現役の選手として活躍する中野選手の目線から30年後のラフティング、レースラフティングをどう見るか?

中野選手:「レースラフティングチームテイケイが30年後あるか?というと多分無いと思います。先頭で率いていくチームが無いというのは、発展という意味で大きな損失になる。率いていく、次世代の育成は急務だと考えています。パドリングを楽しむ社会にするには、川や自然に敬意をはらう事が何よりも大切。そのためには川を好きでないと理解できない事も多い、川を好きになると自然と大切にしたくなる。そうやって川と人の距離が保てたらいいなと思います。

小さいうちから川との関わり方を学ぶことが大切

ラフティングは漕げない人、子供でも乗って流れを感じる事の出来る乗り物です。子供が小さい時からラフティングに乗ったり、家族で季節ごとに乗ってみたり、ラフティングで川の流れに触れる機会が日常となり文化として根付いていけば、川にゴミを捨てたり、街でゴミを捨てたりしないんじゃないかな。ゴミだらけの川ではパドルしたくないから。

小さいうちから楽しみながら、川との関わり方を学ぶのは大切だと思います。お世話になっているアウトリガーカヌーのクラブでは、次の世代に繋がっています。子どもの付き添いで来た親御さんがカヌーに魅了されカヌーを漕ぎ始めることも珍しくないです。お父さんお母さんが漕いでいる間、他の大人たちが子どもと過ごしたり・・・。クラブ側がたくさんの家族が一緒に過ごせる環境を自然と提供していて、すごくいいですよね。川を大切にする仲間たちと、子どもも大人も一緒に過ごせたらパドリングは繋がっていくんだろうなと思います」

試合中、リラックスした雰囲気の一枚(写真右)

中野晶良選手より~世界選手権に向けて意気込み

中野選手にとって2度目の世界選手権となるボスニアヘルツェゴビナ大会。初出場のオーストラリア大会は総合4位。世界のライバルたちと激流を漕ぐ中でレースラフティングの面白さにハマっていった。コロナウィルス感染症の影響で延期が続き、今年のボスニア大会が3年ぶりの世界選手権開催となる。国内外の大会延期が相次いだが、大会に向けしっかりと準備することができたと前向きだ。

世界選手権オーストラリア大会にて 画像はAustralian Rafting Federationより

中野選手:「世界選手権に向けてとても楽しみです。得意種目であるスラロームでしっかり結果を出して勝ちに行きます。大会延期により、経験を積む機会が失われたという意味では一度モチベーションは下がりました。しかし、大会に出られないというネガティブな気持ちより、大会に向けて備えられたというポジティブな気持ちが強い。今はやることがしっかり見えていて練習を積めている。チームとして出来上がった状態で現地入りすることができる、漕ぐことがほんとに待ち遠しいです」

一度はツアー会社に就職、救助の道へ進むことを決めていたがラフティングでのチャレンジを選んだ

大学でのパドリング経験を活かし、アウトドアツアー会社に就職。ラフティングガイドやカヌーインストラクターとして忙しい日々を送っていた。結婚し家族との生活を考えたタイミングでチーム加入の声がかかる。

中野選手:「チームに入る前は山岳救助・急流救助の仕事に就く道を考えていました。レスキューに興味があったし、生活のことも考え堅実な道では?と思っていたからです。救助隊になることに関して、レースラフティング同様情熱を注いでいました。実際に学校に通い、間もなく資格も取得するというところでした。

そんな時、チーム加入の声がかかった。もうすでに救助隊の道に進んでいたけど、挑戦したい想いがラフティングのほうが大きかったんです。「夢を追いかけ続けろ」という家族の言葉にも後押しされ、守りに入らずやりたい事をやるという選択をしました。

チーム競技という点にも魅了されました。中学、高校のときは吹奏楽部に入っていて、楽しかったのですが、結果は出なかった。その経験が今の挑戦に繋がっている一つかもしれません」と語る中野選手、最後に世界一を目指す理由を聞いてみた。

中野選手:「純粋に一番を目指すのが好きで挑戦したいからです。そして、応援してくれる家族がいる。それが世界一を目指す理由です」

家族の力は大きな力となる(写真中央、妻のみやさんと)

2度目の世界選手権、準備はできている。世界選手権という舞台で、激流を漕ぐ中野選手の姿は見ている人を魅了することだろう。

 

ラフティングチームテイケイ
WEBサイト:https://team-teikei.com/
Facebook :https://www.facebook.com/profile.php?id=100041655560391

中野晶良選手
Instagram :https://www.instagram.com/akira.nkn/

 

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