誰にもできないことを探して……。|YAMAYA宿主・大野健さん①

2021.06.17

三好人

そこは、秘境の入口にある隠れ家。四国のまんなか、徳島県三好市山城町にある、築80年の古民家を改装したゲストハウスであり、カフェ&バーである。

 

「この愛らしい日本の古民家ゲストハウスは、秘境の祖谷を探索したり、大自然に囲まれた静かな宿泊施設を楽しもうとする、すべての旅行者にとって完璧だ」

 

「このゲストハウスに宿泊したことは、今回の日本旅行において、最良の選択だった」

 

 

「ケンの店は最高だわ。人込みからかけ離れた美しい祖谷の中にあって、本当のリラックスが得られる場所なの」

これらは、『YAMAYA』に宿泊した外国人旅行者が、のちにSNSへ発信したコメントの一部である。そして、多くの利用者から親しみを込めてケンと呼ばれる大野健さんが、この宿の主である。この記事でも、あえて、ケンと呼びたい。

『YAMAYA』がオープンしたのは、2017年9月。オープン当初は、ケンの父、昌彦さんがオーナーだった。大学時代を過ごした神戸から実家である山城へ戻ってきてすぐ、ゲストハウスを始めると聞かされた。
「仕事もないんだし、手伝え」と言われ、就職も決めていないケンは、『YAMAYA』ができるまでは手伝うことに。

しかし、オープンから3ヵ月ほどが過ぎたころ、昌彦さんがすい臓ガンに犯されていることを知る。それからは、ケンが厨房に立ち、素人ながらレシピを見ながら料理をするように。
「ド素人が作った料理だったんですよ。でも、お客さまの反応を見たり、意見を聞きながら、これまで続けてきました」とケン。
昨年には、独学で調理師免許も取得したという。

昌彦さんは、元々は山城で家業の金物店とガソリンスタンドを営んでいた。金物屋の屋号であった「やまや」を引き継いで、現在の名前に。かつては東京に住んだこともあり、過去には事業に失敗して多額の借金を抱えたこともあったとか。そのため、奥さまの里美さんは『YAMAYA』を始めることに反対し、1ヵ月間もの間、口をきかないほどだった。

ところが、2019年早々、昌彦さんが亡くなってしまう。『YAMAYA』となった古民家の改修は昌彦さんがデザインし、リノベーションも自分たちでやってきた。最初は、引き継ぐつもりはなかったものの、昌彦さんの死後、1週間半ほど休業してから、オーナーを引き継いだ。

最初は『YAMAYA』オープンに反対していた里美さんも、次第に手伝ってくれるように。最近では、だんだんと楽しめるようになってきたようだ。

ケンが腕をふるうカフェ&バーでは、地元の食材を使用しながら、和食、洋食、エスニックと幅広いメニュー構成が楽しい。海外を訪れた経験から、いずれも本格的な味わいが魅力だ。料理だけでなく、地酒などの日本酒、世界各国のビールやワイン、さらにバーテンダーとしての経験もあるケンのカクテルも人気。

その味はといえば、「ケンのパスタはイタリアで食べたものより、ずっとおいしい。間違いなく日本一ね」と、SNSのレビューに書かれたほどだ。

これは、ケンが作ったパエリア!

 

古民家を改装した店内は、掘りごたつ式のテーブル席とカウンター、さらに美しい景色も楽しめるテラス席も用意されている。

ゲストハウスは、板張りの間があり、昔のままの引き戸、時代箪笥、古い電気の配線、すりガラスの窓などなど、昔ならの暮らしを感じられるような雰囲気。日本人も忘れがちな、古き良き時代のテイストにあふれている。その上で、フリーWI-FIに加え、シャワーや水洗トイレなど、現代人が過ごしやすい設備はそろっている。

祖谷の大自然に囲まれた古民家宿『YAMAYA』には、古き良き日本ならではの風情があり、ワールドワイドな料理とお酒がそろう。そして……。

「ケンは、すばらしいホストよ。とても親切で、丁寧で、優しくて。楽しい会話もたくさんして、一緒に過ごした時間をとても感謝しているの」と、レビューに書かれている。

祖谷の自然の豊かさ、建物や調度品からあふれ出る風情、料理とドリンクのおいしさ、『YAMAYA』のウリは数あれど、最終的に人を惹きつけているのは、ケンの人間的な魅力なのだろう。

次回の記事では、ケンの人間力を磨いた過去のストーリーを少しだけ振り返ってみようと思う。

 

YAMAYA
Webサイト:https://www.kominkayamaya.com/

大野健(YAMAYA)
facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100013337920634

 

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